【マーケティング戦術の4P】わかりやすい考え方と実践方法を解説
理解しているつもりで、意外と効果的に活用できていないのが、マーケティング戦術の「4P」というフレームワークです。デジタルマーケティングが生まれるよりもはるか前、1960年代に提唱されたマーケティング理論ではありますが、その基本的な考え方や枠組みは、現代のビジネスにおいても十分に有用です。
本記事では、4Pの基本をできるだけわかりやすく解説しつつ、どう現代のビジネスに活用していくかを解説します。
●目次
4Pはマーケティング戦術の基本フレームワーク
マーケティングにおける「4P」とは、商品・サービスを効果的に市場に届けるためのマーケティング要素を組み合わせたもので、以下の4つのことを指します。
複数の要素、複合的な視点から立てるマーケティング戦術で、マーケティングミックスの代表的な一つともいわれています。
1960年代にアメリカのマーケティング学者E.ジェローム・マッカーシーが提唱したフレームワークで、4Pを土台に、より顧客目線に立った「4C」、サービス(無形商材)に特化した「7P」といった概念も生まれるなど、マーケティングにおける基本的なフレームワークの一つにもなっています。
……というと、なんだか難しそうなことのように思えますが、つまりは「お客さんに製品・サービスを届けるために、自社がコントロールできる重要な4要素がある。それを戦略に沿ってしっかり考えよう」ということです。
なぜ、いきなり4P分析をしてはいけないのか?
例えば、4P分析がしっかりとできていると、以下のような細かな施策や製品開発の悩みを解決する際に役立ちます。
・施策の方向性が定まらない
・見込み顧客が増えない
・価格が決められない など
ただし、本記事では何も準備せず、いきなり4P分析をすることはおすすめしません。
というのも、4P分析はあくまで一つの「戦術」だからです。「戦術」は、より大きな方向性を示す「戦略」があって、初めてその良し悪しが判断できるようになります。
例えば旅行に行くとき、目的地を決めずに持ち物や服装、スケジュールを考える人はほとんどいないですよね。どこに旅行に行くかが決まらないと、“適正”な持ち物、服装、スケジュールは決められないはずです。
つまり、旅行の目的地(戦略)が決まって初めて、“適正な”持ち物、服装、スケジュール(戦術)が決められるわけです。また、その戦術が仮に間違っていたとしても、もし戦略が定まっていなければ、成否の判断をすることもできません。「戦略」は、“適正な”「戦術」を定義するために必要なものでもあるのです。
「4Pはあくまで戦術。戦略があって初めて効果的に活用できる」ということを覚えておきましょう。
では、4P分析をするにあたっては、どのような戦略が必要なのでしょうか。その代表的な一つが「STP分析」と呼ばれるものです。
STP分析とは、おもに以下の3つの要素を定めるための考え方です。
Segmentation = 市場を細分化
Targeting = 細分化した、どこを狙うかを決める
Positioning = ターゲットにとって、どんな立ち位置かを決める
4P分析において、もっとも重要だといわれているのが「一貫性」です。一貫性があるとその製品・サービスのターゲットが明確になり、顧客に「自分向けの商品だ」と感じてもらうことに繋がります。
その前段階としてのSTP分析は、顧客像や、自社が提供するべき価値を明確にします。そうすることで、4P分析をする際にも一貫性が生まれ、ターゲットユーザーに対してより効果的にアプローチできるようになります。
4P分析と「3C分析」「SWOT分析」との違い
「4P分析」と並んで、有名なマーケティング分析の手法には「3C分析」や「SWOT分析」などがあります。各手法の具体的な活用方法を解説する前に、まずはそれぞれの手法がどのプロセスで活用すべきフレームワークなのかを、確認していきましょう。
一般的に、マーケティングの戦略を立案する場合、以下のようなプロセスで進めていくことになります。
環境分析
↓
戦略立案
↓
戦術(施策)立案
この中で、この記事で紹介している各分析手法はそれぞれ以下のように当てはまります。
環境分析 → 3C分析、SWOT分析
戦略立案 → STP分析
戦術立案 → 4P分析
「3C分析」「SWOT分析」などで自社を取り巻く市場の環境を、客観的に把握しておくことで、STP分析による戦略立案がスムーズに行えるようになります。そして、STP分析で戦略の方向性が明確になったら、4P分析もより精度高く行えるようになるでしょう。
では、ここからは「3C分析」「SWOT分析」のそれぞれの手法について、簡単に解説してみましょう。
3C分析とは?
3C分析は、以下の3要素を軸に市場環境を分析するためのフレームワークです。
Customer = 顧客
Competitor = 競合
Company = 自社
それぞれの要素が、現在の市場においてどのような存在になっているかを分析していきます。例えば、Customer(=顧客)であれば、市場規模、市場の成長性、顧客の属性やニーズ、購買行動やプロセスといった要素について調査した上で、明らかにしていきます。
3C分析を行うにあたっては、その前段階の情報収集が非常に重要です。自社にとって都合のよい情報だけを集めるのではなく、定量、定性両方のデータを収集し、客観的事実として把握、分析することが事業の確度を高めることに繋がります。
SWOT分析とは?
SWOT分析は、3C分析で紹介したうち、Company(=自社)の分析などにも用いられる手法で、自社を取り巻く環境を、内部・外部環境、プラス・マイナスの2軸からなる、4象限マトリクスで表し分析するフレームワークです。
各象限は「Strengths(=強み)」「Weaknesses(=弱み)」「Opportunities(=機会)」「Threats(=脅威)」の4つの要素がそれぞれ入り、以下の図のように表します。
Strength(=強み)… 製品・サービスに対して良い影響を与える、内部環境の要因
Weaknesses(=弱み)… 製品・サービスに対して悪い影響を与える、内部環境の要因
Opportunities(=機会)… 製品・サービスに対して良い影響を与える、外部環境の要因
Threats(=脅威)… 製品・サービスに対して悪い影響を与える、外部環境の要因
これらの4つの要素を洗い出し、上の4象限マトリクスの図の該当する象限に書き込んで行きます。
SWOT分析を行う際は、自社の内部環境が外部環境に影響されている可能性があるため、外部環境から分析を行います。そうすることで、内部環境を分析するときに、より要因がわかりやすくなります。
また、SWOT分析でよくある失敗が、「機会」と「強み」、「脅威」と「弱み」がそれぞれ混同し、その要因をどの象限に入れるべきか曖昧になってしまうこと。内部環境は自社でコントロールできるもの、外部環境は自社でコントロールできないものという線引きを明確にした上で、それぞれの要素を挙げていきましょう。
4P分析の考え方と実践方法
では、ここからは4Pの各要素において、それぞれ詳細に見ていきましょう。
Product(製品):提供価値を追求する
◾️ Product(製品)を考える際の質問チェックリスト
- その製品の、ターゲットは誰か
- その製品は、ターゲットユーザーが抱えるどんな課題を解決するか
- その製品は、ターゲットユーザーのニーズにどんなふうに応えるか
競合に比べて、自社製品だけにある強みはなにか
4Pの中でもとくに重要な要素が「Product(製品)」です。
どんな製品、サービスを提供するのかを考えるとともに、「顧客にとってどんな価値があるのか」を追求します。また自社だけでなく、競合と比べたときの自社の強みや魅力を、客観的に把握することも大切です。
また、Productが指すのは製品そのものだけではありません。品質、機能に加え、デザイン、パッケージ、ブランドイメージ、アフターサービスなど、製品に関わる顧客体験を広く含みます。「Product = 製品・サービスのことだけではない」と心得ておきましょう。
Productの要素を考える上で重要なのは、必ずしも「高品質」や「高機能」だけが正解ではないということ。STP分析でペルソナが明確になり、そのペルソナが抱えている課題を解決できるならば、あえて品質を下げたり、機能を削ぎ落としたりして、より安価に価値を提供できるほうがうまく行くこともあります。
◾️ Product(製品)を考える際に活用できるフレームワーク
4PのうちのProductを検討する際に活用できるフレームワークとしては「プロダクト3層モデル」(下図)が挙げられます。
「プロダクト3層モデル」は、製品・サービスの価値構造を3層に分けて整理することで、実際に製品が提供できる価値を可視化するフレームワークです。「製品3層モデル」や「コトラーの3層モデル」などといわれることもあります。
製品の中核 … その製品の本質的な価値、顧客が受け取るもっとも重要なベネフィットを指します
製品の実体 … 顧客から見たときにその製品の特長と呼ぶべき要素です。顧客が製品を選ぶ際にもっとも重視する要素は、じつはこの層にあります
製品の付随機能 … 製品の中核には直接影響しないが、間接的に顧客が体験する価値を引き上げる要素です
「プロダクト3層モデル」のフレームワークを活用することの大きなメリットの一つは、顧客目線で、自社の製品・サービスが提供できる価値を把握できるようになることです。
3層モデルを考える際には「顧客目線」を徹底し、Productにおける戦術をより強固なものにしていきましょう。
Price(価格):価値の適正値をはかる
◾️ Price(価格)を考える際の質問チェックリスト
- その製品に対して、顧客が支払える金額はいくらか
- その製品は、いくらのコストでつくられているか
- 競合する製品は、いくらか
その製品の販売価格に、段階を設けることができるか
「Price(価格)」は、製品・サービスに対して顧客が支払う金額のこと。
利益や売上に直接関わる要素でありながら、生産コスト、競合との比較、顧客視点、市場相場など多くの考え方からアプローチでき、かつブランド価値の向上、顧客満足度、市場への浸透速度などにも影響してくるという、非常に複雑な要素です。
何を基準にして価格を設定すべきかは企業、製品・サービスごとに異なりますし、その考え方も無数にあります。ですが、その中で自社がどんな意図を持って値付けをするかが重要となります。
価格の設定方法は、何を基準とするかによって大きく3つの型に分けられます。
コスト基準 … 製造コストを基準に価格を設定する方法製品の中核
競争基準 … 競合他社の販売価格を基準に価格を設定する方法
マーケティング戦略基準 … マーケティング戦略に則った考え方で、適正な価格を設定する方法
価格設定そのものが、「価格戦略」「プライシング戦略」などと呼ばれることもあります。プライシングだけで一つの戦術になるくらい、重要なものだと認識しておきましょう。
◾️ Price(製品)を考える際に活用できるフレームワーク
プライシングにはさまざまな考え方やフレームワークがありますが、一概に「どれが優れている」とはいえません。調べてみて、比較検討するなかで自社の環境、製品・サービスに適したものを選ぶようにしましょう。
以下は、代表的なプライシングや分析の手法例です。
Promotion(プロモーション):顧客に必要な情報を届ける
◾️ Promotion(プロモーション)を考える際の質問チェックリスト
- ターゲットは誰で、どう語りかける必要があるか
- ターゲットにアプローチするには、どのツールを選ぶか
- その製品に、どんなイメージを持ってもらいたいか
競合は、どのようなプロモーションをしているか
「Promotion(プロモーション)」は、認知度、ブランド価値、購買意欲の向上などのために、消費者に提供する情報をコントロールしていくことを指します。
Promotionの中には、おもに上図で示した広告・宣伝、広報・PR、人的資源、セールスプロモーションの4種類の取り組みがあります。
いずれの取り組みも、ベースになるのは「自社製品・サービスの情報」なので、その製品・サービスの魅力や強みを、自社がどれだけ顧客目線で把握できているかが重要となります。
例えば、Productの項目で紹介した「プロダクト3層モデル」のフレームワークを活用することで、製品・サービスの価値構造が把握でき、プロモーションで出すべき情報もより明確になります。
また、プロモーションにおいても顧客目線に立つことが重要です。どんなに企業が頑張って発信をしていても、そのすべてのメッセージを顧客が受け取ってくれるわけではありません。常に一人の顧客としての視点を持ち、「どうすれば伝わるのか」「記憶に残るのか」を考えて取り組むことが重要です。
発信する媒体や手法によって、適切な情報量も違えばアプローチできるユーザー層も異なります。STP分析で明確になったペルソナをもとに、「ターゲットユーザーに必要な情報を届けるためには、どのツール・手法を選べばよいのか」という観点で考えてみましょう。
Place(場所):「便利にor 楽しく」買える場所を整える
「Place(場所)」は、従来の4Pでは、おもに物理的な販売チャネルの整備として「流通」「流通経路」と位置付けされることが一般的でした。
ですが、現代においてはオンラインを含めて販売チャネルは多様化し、必ずしも従来の「流通」という言葉では、包含しきれないケースも出てきました。そのため本記事では、広く“販売の接点”として捉えられるように「Place〈場所〉」としています。
Placeは、製品・サービスを顧客に届けるためのチャネルを整備すること。現代の販売チャネルは大きくオンラインとオフライン、直接販売と間接販売に分けられます。それらをマトリクスで示したのが、以下の図です。
◾️ Place(場所)を考える際の質問チェックリスト
- ターゲットは、同じような製品をどこで購入しているか
- 顧客はどこにいるか
- BtoBか、BtoCか
- 競合は、どこで販売しているか
自社の製品・サービスを提供する場所として、どの販売チャネルを選定するかを検討します。
例えば、70歳以上をターゲットに生活家電を販売するとき、販売チャネルがスマホのECサイトのみの場合、多くの人が「苦戦しそう」と予測するのではないでしょうか。
とくにSTP分析でペルソナが決まっている場合、販売チャネルは「ペルソナがどこにいるのか」「どんなライフスタイルなのか」を想像した上で選定する必要があります。
また、どんなに優れた製品・サービスであっても家から遠く離れた場所に出向いてまで購入する人は多くありません。
Placeを考える上では「ただ買える場所」ではなく「より便利に買える」、あるいは「より楽しく買える場所」にできないかを探ることも重要です。もし実現できれば、購買の体験価値を高めることができ、顧客満足度にも繋がります。
なお、ブランド戦略として限定的に流通させる場合などを除き、販売チャネルは多いに越したことはありません。ですがチャネル数を増やせばその分、コストも増えるので注意しましょう。
さらにPlaceでは物理的な「流通網の整備」についても考える必要があります。
流通網を自社で用意するか、既存のネットワークを活用するか。そして物流の効率化、在庫管理までも検討すべき項目として含みます。無形サービスでない場合、オンライン販売であっても物流、在庫管理の方法、コストまで考えておかなくてはいけません。
令和の4Pは一貫性と顧客目線が最重要
市場の飽和、商品のコモディティ化が叫ばれる令和の現代において、顧客側の選択肢は無数に増えました。その中で競合と差別化し、自社の製品・サービスを選んでもらうためには、一貫したメッセージの発信、ストーリーテリングがより重視されるようになってきています。
しかし、とくに企業規模が大きくなってくると、各部門がそれぞれ「ベスト」だと思う選択をしてしまうがゆえに、一貫性を保つのが難しくなってしまう場合があります。こうした事態を防ぎ、商品の一貫性をコントロールするための一つの手法が、4Pでもあります。
そして、4Pに一貫性を持たせるために重要なのが、STP分析などの「戦略」です。「戦略」があることで「戦術」で取るべき方向が明確になり、たとえ「失敗→改善」のサイクルが作りやすくなります。
一方で、現代のビジネスでもっとも大切なのが、徹底的に「顧客目線」を持つことです。4Pは元々、大量生産・大量消費の時代に生まれた考え方で、企業の視点(プロダクトアウト)が強い傾向があります。しかし、このマーケティングの基本的な枠組みも、市場や顧客の視点(マーケットイン)をもって活用すれば、現代でも十分役立つフレームワークになります。
以下、4Pをベースに登場した、マーケティングミックスのフレームワークを二つ、紹介します。これらもうまく活用しながら、自社に適切なマーケティング戦略を組み立ていきましょう。
◾️ 4C
4Pの各要素を「顧客目線」に変換して考えるためのフレームワーク
・Product(製品) ⇔ Customer Value(顧客が感じる価値)
・Price(価格) ⇔ Customer Cost(顧客が支払うコスト)
・Promotion(プロモーション) ⇔ Communication(コミュニケーションのしやすさ)
・Place(場所) ⇔ Convenience(利便性)
◾️ 7P
サービス業態に特化して考える際に、4Pにたりない3要素を足したフレームワーク。
以下の3要素が追加されている
・People(人)
・Process(過程)
・Physical Evidence(物的証拠)
まとめ
Product、Price、Promotion、Place(製品、価格、プロモーション、場所)で構成されるマーケティングの4Pは、事業成長を推進する上で基本となる重要なマーケティング戦術の一つです。
事業を進めるとき、考えるべき項目や検討すべき要素は一見、数えきれないほどあるように感じます。しかし、4Pのフレームワークを使えば、これらの要素を整理し、それぞれに明確な方向性を設定できます。その結果、製品・サービスが顧客に一貫したメッセージを伝えられるようになり、少ないコストと労力で、効果的にターゲットユーザーにアピールできるようになります。
ただし、市場環境はつねに変化しています。「4Pで戦術を立てたから安心」というわけではけっしてありません。市場の反応を注意深く観察し、顧客から予想外の反応があったり、期待する成果に繋がらなかったりした場合は、PDCAサイクルを回しながら調整を加え、継続的に改善を重ねていきましょう。
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